痔ろうと肛門周囲膿瘍について
肛門周辺で細菌感染による炎症が起こり、肛門皮膚と直腸が筒状に繋がる疾患を痔ろうと呼びます。
肛門皮膚に空いた穴から膿が出てくることから穴痔という名称でも知られています。よくある発症原因は下痢と考えられており、どちらかと言うと男性の患者様が多い傾向にあります。
原因
下痢になりやすい方の発症率が高いと言われていますが、確実な原因は不明です。直腸粘膜と肛門上皮の繋ぎ目にあたる歯状線には複数の穴があります。これらの穴には便が侵入しづらくなっていますが、下痢などの柔らかい便が侵入すると細菌感染が起こり、肛門周囲膿瘍の発症に至ります。健康な方は便が侵入しても細菌感染は起こりませんが、免疫が弱っている状態で感染することがあります。悪化すると膿が外に出るための筒が形成され、肛門皮膚まで繋がってしまいます。以下に該当する方は発症しやすいと考えられているためご注意ください。
- 下痢になりやすい方
- ストレスを溜めやすい方
- 肛門括約筋が過度に緊張している方
- お酒を飲むことが好きな方
- 喫煙などで抵抗力が落ちている方
- 糖尿病を患っている方
また、切れ痔(裂肛)がきっかけで痔ろうに至ることもあり、炎症性腸疾患や潰瘍性大腸炎を併発する恐れもありますので注意が必要です。
肛門周囲膿瘍・痔ろうの症状
直腸粘膜と肛門皮膚が筒で繋がる痔ろうに至るまで、患部の熱感や痛み、肛門周辺の腫れなどの症状が起こります。なお、皮膚を貫通するとこうした症状は治まります。しかし、肛門周囲膿瘍の再発によって、座っていられないくらいの強烈な痛みや38〜39℃の高熱といった症状が起こることもありますので注意が必要です。
肛門周囲膿瘍
- 熱感
- 痛み
- 発熱
- 腫れ
痔ろう
- かゆみや鈍い痛みが慢性的にある
- 排便後にお尻を拭くとトイレットペーパーに膿が付いている
- 皮膚の穴から膿が漏れて下着に付着する
痔ろうは放置すると複雑化してしまう
痔ろうを治療せずに放っておくと、形成された筒が蟻の巣のように入り組んだ構造になってしまいます。痔ろうが複雑化することで、肛門周辺の静脈叢がダメージを受け、肛門が正常に機能しなくなることで日常生活にも悪影響が及びます。複雑化した痔ろうの治療は難易度が高くなり、手術治療は患者様へのご負担が大きく、肛門機能への悪影響が懸念されます。
痔ろうの手術
痔ろうは、切れ痔やいぼ痔のように軟膏などのお薬では治療できず、手術が不可欠となります。
具体的には以下のような手術方法が採用されます。
- 筋肉を残すくり抜き法
- 筋肉にメスを入れる切開開放
- Ligation of Intersphincteric Fistula Tract法
- シートン法
痔ろうと肛門括約筋にメスを入れる切開法がよく採用されますが、肛門機能を維持することが難しくなるため、当院では筋肉は切開しないくり抜き法で手術を進める方針としております。また、くり抜き法と並行してシートン法(痔ろうの内部に挿入した専用のゴムを徐々に締め上げて取り除く方法)を行う場合もあります。